【Windows女子部創立5周年記念】日本マイクロソフト株式会社 代表執行役 会長 樋口 泰行 氏の本音トークLIVE!(2016/06/23)

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Windows 女子部が 1月で 5周年めということで、本日は 日本マイクロソフト株式会社 樋口 泰行会長をお迎えしての本音トークLIVE、テーマは、

ダイバーシティは課題を乗り越えるトリガーとなりうるか」。

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ご多忙の中、樋口会長は手書きのレジュメスライドをご用意してくださっており、手書き文字の「Windows 女子部」というタイトルに、人柄を感じました。

はじめは樋口会長ご自身の、仕事の変遷とそのなかで感じてきたことについて。

樋口会長は大学を出てから今のパナソニックへ入社され、溶接設計という仕事に就き、そこから留学を経てボストンコンサルティング、アップル、コンパック(のちにHP社へ)、そしてダイエー、日本マイクロソフトと歩まれてきました。

HP社で社長にご就任されるまでのくだりは、ご著書の「愚直論」にも詳しいのですが、実際にその時に感じていたことを目の前で伺うのは、活字で知るだけよりも、経験から得てきたものを大切にされている樋口さんの姿勢や努力の現実感が大きく違いました。

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最先端の技術に触れる同期たちを横目に、樋口会長は配属された溶接設計部門で、実際の溶接から、本来の研究、設計、そして営業としての役割も、顧客対応もひととおりのことをこなし、複数の特許も取られたとのこと。

そのときの話を思い起こされながら、
「頑張れば、それは誰かが見ている、いや、見ていないかもしれないけど(笑)、でも、のちのち、誰かにそのときやってきたことや、その自分が評価してもらえることはかならずくるから」

と仰ったのが印象的でした。今ばかり追ってしまうけれど、いつか「先の自分」に繋がるということ。苦しい時には忘れがちだけれど、苦しい思いをした方が振り返るから、言葉にできることがあるのだな、と改めて感じました。

「眼鏡手当」が出るほど、操作者に負担のかかる仕事を身につけたあと、樋口さんはマネジメントを学ぶということでハーバード大学へ留学されます。

「それまで”沈黙は金”、”余計なことを言わずに黙っているように”と躾けられたのに、突然自己主張を、しかも日本語でだってほぼわからないようなマーケティングの用語や経済用語が英語で飛び交う世界は大変だった」とおっしゃいながらも、こつこつと努力を続けられます。

90人のクラスが9個、それぞれの科目で10%の人数が落第するという厳しさのなか、無事にご卒業されたあと、学んだことを活かすためにボストンコンサルティングへ。

ここで、また新たな世界で働くことの厳しさや悔しさがあり、樋口さんは一度以前の職場に復職もできないかと悩まれたそうです。

ところが、ここでの弱音は家庭内稟議が通らず(笑)、けれどご家庭を預けた方からの背中押しとして、樋口さんはそのまま進み続けることとなります。

そして、コンサルティングの面白みも感じられながら、「現場」の温度を学び続けるために転職、営業経験なども幅広く積み上げて、社長職につくことになります。

 

樋口会長の仰る「T字型」のスタイルは、自分の芯となるものを決めてから横幅となる知識や人脈、そのほかの多くの経験を持つという、縦(芯)と横(幅)を伸ばすというものです。

「背骨を決めてから横幅を広げても遅くない、若いうちに幅だけ求めても薄っぺらい印象を拭えなくなるとが、特に30代くらいから多くなってしまう場合がある」

そんなことを仰られながら、T字型スタイルに続くキャリア開発論が続きました。

中でも、「人のマネジメント」については、現在”外資系日本法人”にいらっしゃる身として非常に頭を悩ませる部分です、とのこと。

たとえば経理、企画といった部門の立場の方々は、外資本体となる海外本社との折衝が生じます。語学力はもちろん、思考スタイルも海外のそれが理解できて、やりとりができる必要がありますが、一方で、マーケティングや営業、顧客対応となってくると、実際のマーケット市場は日本国内、国内の義理人情といった柵みもふくめ、日本文化に添った思考スタイルなどが必要となります。他方、経営層やトップ層の方々は、その両方を視野に入れることが出来、それぞれを理解することが求められます。

三角形を描くその構成を説明していただきましたが、かなり頷いていた方も多かったようです。

国際展開といわれる昨今ですが、きっとこのようにきちんと言語化された形で組織構成を分析して要員配置をするというのは、まだまだ日本では難しい状態なのかもしれないと個人的には感じました。

そして求められるのは、人間力、器、マインド、異文化理解、公平性。同じことをA氏とB氏が言う時に、その裏に経験値や人間味があるかどうか、自他の相違理解があるかどうかで受け入れられるかどうかが変わってしまうという経験は、誰しもにあるのではないでしょうか。

知的職業には、これらの「現場経験」を積む機会がないまま、樋口さんいわく「ショートカットして」、頭脳仕事をする方も多くいらっしゃいます。それ自体は悪いことでも間違いでもないけれど、やはり実際に積んだ経験というものは、ひとの上に立つときに、相手との温度感の差に気がつくことの出来るスキルアップにつながりえます。これは、現場に居て今努力しているひとたちへの、そういうスキルが伸びているところだから焦らなくて良いというメッセージなのだろうと思いました。

 

それから、BossとLeaderの違い、ひとの伸びしろとなる「戦略性×パッション」について。

 戦略性を阻害する要因(経営レベルになると特に大事なもの)としては、下記があげられると樋口さんは述べられました。

  • 思考停止
  • 固定概念
  • 虫の眼>鳥の眼
  • 迎合的・無力感
  • リスク回避的

 そして、よくも悪くも、同質性というものがとてもネックになるということ、女性というとダイバーシティというだけじゃなくていろいろなダイバーシティがあり、例えば経験のダイバーシティだってあるということ。

ダイバーシティに敏感な会社は世の中のいろいろなことに敏感で、鈍感なところでビジネスモデルが未だ保っているところはそこにあぐらをかいてしまっており、この後追いつかなくなってくるであろうということ。

 ダイバーシティによって起こることとして、

  • 異質との化学反応
  • 視点の多様化
  • 方向転換の拠り所
  • オープン性、透明性の要求
  • チェック機能
  • 経営の難易度(逆作用に働きやすい)

などがありますが、これらをどう取りまとめていくか、どういう人材がそこに必要かと考えていらっしゃるかなどを拝聴しているうちに、1時間はあっという間に過ぎてしまいました。

今回はおそらく、経営者層向けではない集まりであったために、ご自身が現場にいらしたところから考えられたことや、感じられていることを中心にお話してくださったように思われたのですが、今まさに現場にいる身としては、この先の自分のキャリア形成に対してどのように考えを固定化させないようにするのか、というヒントにもアドバイスにもなり、終わり時間が惜しまれる会となりました。

その後、参加者からの質疑応答10問となりましたが、そのなかで印象に残った言葉がありました。独身女性も増えていくことにより、社会や起業、女性たち自身がそのためにどのように(たとえば収入保障なども含め)働いていくべきかという質問の際です。

「経済力はふしあわせにならない材料のひとつだと思う」
しあわせに向かってどうするか、必要か、ではなく、ふしあわせにならないことから始めること。しあわせのために収入を上げていきたいということはよく耳にするけれど、一見同じことを指している言葉ですが、大きな違いがあるように感じました。その意味が自分の身でわかる日が来るとき、きっとそのときその人は、しあわせなのかもしれません。

また、ライフワークバランスという言葉についても、ライフとワークのバランス、両方手にするという考え方もあるけれど、人生をトータルでみた時のバランスという視点もありますよ、とのこと。

いつ終わるかわからないから今、という言葉も良く聞きますし、実際にそれもそのとおりだと思いますが、いつでも俯瞰的に見る視点を持つということの、別なアプローチとしてのお言葉だったのかもしれません。

ところで、大変個人的な感想ですが、今までWindows女子部でお話を拝聴してきた、マイクロソフトの西脇氏、澤氏のお姿を拝見するときにも感じた、「お話中の姿のすっとした姿勢と、指先までのセクシーさ」を今回も感じました。

動かされる指先まで、きちんと意思を持って、すっと伸ばした爪先までが綺麗な動きをされ、ひとの前でお話する際に、どれだけ全身に神経を傾けて、丁寧にその場に立ち、話をされているかということをとても感じた講演でした。これが、「ひと」に「対して」、話をするということなのだなと改めて考えた次第です。

非常にご多忙の中、本当にありがとうございました!